【シリーズ連載】第二回「シャネル チェーンショルダー」日本経済が停滞していた20年間で市場価格はどれくらい高くなった?
高級ブランド品の中には、長い間デザインを変えずに売れ続け“資産価値がある”と称されるものがある。というテーマのもと執筆しているこの企画。
前回の「第一回バーキン」に引き続き、今回は「CHANEL(シャネル)」不動の人気定番モデル「チェーンショルダー」を取り上げようと思う。
このモデルは現在のデザインとなり、はや40年が経とうとしてる今でも、シャネルの数ある製品の中の人気ナンバーワンを確固たるものとしている。
これほどのロングセラー商品は、ファッションの世界においても数えるほどしかなく、仮に他業種に目を向けても稀であろう。
また、物価の高騰に伴い、著しく価値が高騰しているブランドバッグの一つとしても象徴される。
今回はFirstClass-ファーストクラス-の目線から、シャネルのチェーンショルダーバッグの資産価値や価格の推移について、順を追って解説していこうと思う。
是非、前回の記事等と併せてチェックしていただきたい。
ブランドとして人気を確立している「CHANEL」
まずは「CHANEL(シャネル)」というブランドについて少し触れたい。
シャネルは1909年に“ココ・シャネル”ことガブリエル・シャネルが、女性用の帽子店として興したのが起源。
当時から「時代にとらわれない前衛的な女性象」をブランドイメージに掲げ、現代においても「メンズ向け商品をほとんど作っていない」という特徴がある。(メンズ向けは香水や化粧品、腕時計くらいである)
近年はLVMH、ケリング、リシュモンなどハイブランドを傘下に置くブランドグループが拡大している一方で、シャネルはグループに属さない独立系ブランド、非公開企業である。
創立から長らくシャネルの売上は一切公開されておらず、ブランドの内部状況はベールに包まれていた。
しかし2018年に初めて財務状況が公開され、2017年度の売上高は約1兆1,000億円。この数字は業界トップ「ルイ・ヴィトン」に肉薄するものだった。
直近の2022年度のデータはまだ公開されていないが、ハイブランド全体の好調を考慮すれば売上高2兆円を超えていることも非現実的な数値ではない。
詳しい数字等は以下の記事を参照させてもらった。
「シャネル」が初めて財務状況を公開、売上高は世界第2位|セブツー
シャネル、21年の売上高は2兆円に迫る勢い 「今後も価格改定をする予定」|WWDJAPAN
とにかく、ほぼ女性だけをターゲットとしたブラントでありながら、この数字は凄まじい。
この記事の読者の中にも、シャネルってそんなにすごい?と疑念を抱く方がいるかもしれないが、現在ハイブランドの中でも“限りなくトップに近い立ち位置”であることは疑いようのない事実だ。
「チェーンショルダー」というブランドバッグの象徴
またも前置きが長くなってしまったが、今回話題とするのが、シャネルのアイコンモデル「チェーンショルダー」についてだ。
ブランド好きであれば、見たことないという方はおそらくいないであろうシャネルの大ヒットモデルである。ブランドの垣根を超えたマスターピースだとも思う。
「マトラッセ(Matelasse)」という格子模様で独特のふっくらした質感のラインが定番で、「マトラッセチェーンショルダー」という名称でも広く認知されている。
個人的には、ショルダー部分にチェーンを用い、斜めがけもしくは肩がけができるタイプのバッグは、ハイブランドの中でも「売れる型」の一つと考えている。
それを確立したのは、シャネルのチェーンショルダーの大ヒットであり、似たコンセプトでロゴモチーフを配置したチェーンバッグを展開していないブランドはおそらくない。
このバッグは、それほどファッション業界に多大な影響を与えた。
原型となった2.55モデルを再解釈した11.12が現行モデル
より細かくデザインについて語ると、シャネルのチェーンショルダーが初めて発表されたのは1955年。
初代のチェーンショルダーは「2.55」というモデルで、現行品と主に金具のデザインが異なっており、よりシンプルなターン式金具が採用されている。(※現在も2.55チェーンショルダーとして展開されている)
その後、1983年“故カール・ラガーフェルド”が、当時定番であった2.55を再解釈し「11.12」モデルとして発表したものが現在のデザインとなっている。2.55のシンプルな金具デザインを、シャネルのココマークモチーフに変更されたことが人気爆発の要因となった。
また、2.55ではメタル製のチェーンであったが、11.12ではメタルの中にレザーを編み込んだデザインが採用され、現在でもありとあらゆるシャネルのチェーンバッグに採用されている。
1983年以降は、細かな仕様の変更こそあれど、デザインにほぼ手が加えられていない。
ここ20年で一番値上がりしたブランドバッグ
それでは本題である「資産価値」の話をしよう。
シャネルのチェーンショルダーは、私の知る限りここ20年間でもっとも値上がりしたブランドバッグである。(知る限りとはいえ、おそらく市場価格がこれほど上昇したモデルは限定品以外ではないはず。)
公式の20年前のソースはご提示できないが、弊社の調査や、当時の中古店のビラ(ここには掲載できなくて申し訳ないが)を参照すると、定価は25万円ほどで、状態の良い中古品の市場価格はおおよそ10万円前後であった。
それに対して、2022年1月現在の定価は、定番の25cmタイプが「1,364,000円(シャネル公式参照)」で、状態の良い中古品の市場価格は100万円前後が相場となっている。
ハイブランド全体が物価の高騰に伴い値上げされ、市場価格も高騰してはいるが、シャネルに関しては、ここ数年で急激にラグジュアリー路線への転換が進んでいる。
価格帯でラグジュアリーブランドの王者「HERMES(エルメス)」を比べても、もはやほとんど差はないほどである。
急激な価格改定にもかかわらず、市場価格がそれなりに追従していることから、値上げによって人気が低迷しているという印象もない。
ひとことで20年間でどれくらい高くなったか?というと、定価は5倍に、市場価格は10倍になった。
シャネルチェーンショルダーの定価推移
価格改定についてはもう少し詳しく知っておく必要がある。
これは弊社が調査したシャネルチェーンショルダーの定価の推移を記したグラフである。
見ての通り、直近5年間での価格高騰は凄まじい。この辺りから、市場相場も大きく上がったため、これより前に購入していた人は、仮に手放すとなっても購入金額を下回らない可能性も高い。
ブランド品が高騰しているとはいえ、はっきり言ってこれほど極端に値上げに踏み切ったブランドはない。
シャネルのバッグ全体として値上げ傾向にはあるが、中でも「定番のチェーンショルダー」に対して、大幅な値上げを頻繁に繰り返して今の価格となっている。
実際にシャネルは明らかにラグジュアリー路線に方向転換しており、主力製品である「チェーンショルダー」は、エルメスの「バーキン」や「ケリー」など超高価格帯のバッグとしてのブランディングに舵を切っていると言ってもいいだろう。
古いモデルにも人気が集中
このバッグは古いヴィンテージとされる品でも需要が高い。
上でも解説した通り、ほぼ40年間にわたってデザイン変更がされていないのだから当たり前といえば当たり前なのかもしれないが、同じモデルとはいえ、古い品でも需要があるケースはブランド全体を見渡してもほとんどない。
実際に写真を見ればわかると思うが、現行品と違いはほぼない。強いていえば、古い品物特有のくたりが見られる個体は多いが、それすらも味と感じれるデザインの完成度が強みである。
一点注意があるとすれば、ヴィンテージ品には「ラムスキン」と呼ばれる素材の品が多い。
ラムスキンのモデルは現行品としても展開されているが、より一般的な「キャビアスキン(グレインドカーフスキン)」と比較すると、やや市場価値が下がる傾向にある。
素材の人気は時代によって異なるため、長期的には予想し難いが、素材によって相場が変わる点は、資産としての評価が難しいポイントである。
これから購入をするのであれば、人気が高く耐久性に優れたキャビアスキンモデルが資産価値で見るなら無難だ。
ヴィンテージブランドブームの火付け役に
今となっては当たり前になった「ヴィンテージブランドショップ」であるが、人気の先駆けは“シャネルのヴィンテージ品”に注目が集まったからだと分析している。
“ヴィンテージシャネル”というキーワード自体が一種のファッショントレンドともなり、著名人やインフルエンサーがSNS等で古いシャネル製品を身につけていることも多く見られる。
入れ替わりの激しいファッション業界において、これだけ昔の品が長期的に人気を獲得しているケースは稀だ。
ましてやシャネルは毎年新作を販売しているにも関わらず、並行してヴィンテージ品も同じくらい人気と需要がある。
シャネルに続き、ルイ・ヴィトンやセリーヌ、グッチなどのヴィンテージアイテムにも注目が集まり、ヴィンテージブランドショップなるものが原宿や青山などのファッションエリアに軒を連ねているが、始まりはシャネルからであった。
ヴィンテージでかつレアなシャネル製品は驚くようなプレミア価格で取引されている品も多く、他のブランドの比にならない金額と数である。
古い品でも極めて需要が高い点も、他ブランドとは異なるシャネル独自の価値ゆえにだ。
今後の予測と展望
円安や物価高など様々な要因によって、頻繁に価格改定が行われるハイブランド業界ではあるが、その中でもシャネルのラグジュアリー路線への舵の切り方は異常だ。
この強気な価格設定でさらに売上が増え続けるようであれば、ますます高級化が進み高級ブランドのトップに君臨することも十分現実的な話となる。
少なくともチェーンショルダーに関しては、40年間デザインを変えずに売れ続けてきたという実績のもと値上げされている。
ただ正直100万円を超えている現在の価格設定は未知の領域であり、そもそも100万円を超えるブランドバッグ自体数えるほどしかない。
それでもなお売れ続けていくのか?というと疑問ではある。
実際に資産価値はここ数年で大幅に上昇したが、これが一時のバブルなのか、シャネルのチェーンショルダーが持つ本来の価値を伴う相場なのかという点を見極めるには次期早々かもしれない。
資産としてのシャネルチェーンショルダーバッグ
一般的にバッグは着用するもの。
使っていれば傷や使用感が目で見られ、資産としての価値は腕時計やジュエリーと比較すると低い。
しかし、これだけ頻繁に価格改定が行われるとしたら話は別だ。
ここ数年で大幅に定価が引き上げられたが、価格改定以前に購入していれば、現状リセールバリューも極めて高く、仮に使用したとしてもコンディションが良ければ購入した金額が返ってきてもおかしくはない。
少なくとも数十年間にわたり人気を維持している点は、比較的安定を裏付ける材料の一つだ。
懸念点としては、昨今の高騰ぶりは需要供給のバランスからではなく、あくまでシャネルの価格改定によるものという点。
そのため、買い時売り時が難しくなってはいるが、過去を振り返ってもブランド品が人気低迷や為替などによって値下げされるケースはほぼない。
将来的な資産価値でブランドバッグを選ぶなら、もっとも有力な候補の一つであることは間違いないはずだ。
(文=小林 嶺)
この記事を監修した人
代表取締役
小林嶺