【シリーズ連載】第三回「エクスプローラーⅠ」日本経済が停滞していた20年間で市場価格はどれくらい高くなった?
高級ブランドの中には、“形を変えず売られ続けた”結果、資産価値があると称されるものがある。
このテーマのもと、ブランド品を紹介するこの企画。第三回となる今回は「ROLEX(ロレックス)エクスプローラーⅠ」をご紹介する。
現行のロレックスプロフェッショナルウォッチの中でも、もっとも歴史の深いモデルでもあり、定番アイテムとして古くから親しまれていて、現在は入手が困難な品である。
特に近年、ロレックスのモデル全般が、入手困難につき相場が大高騰している。
今回は「FirstClass-ファーストクラス-」の目線から、そして実際に愛用している筆者の目線から、魅力や価格推移について解説していこうと思う。
エベレスト登頂を受けて開発された究極の実用時計
「Explorer:探検家」の名を冠したこのモデルは、文字通り“探検家のため”に開発されたモデルだ。
1953年、人類初のエベレスト登頂に成功した「エドモンド・ヒラリー氏」の遠征隊は、「オイスターパーペチュアル クロノメーター」を着用し、その快挙を成し遂げた。
それを受け、同年にロレックスから発表されたのがエクスプローラーⅠである。
以降、ロングセラー商品となり、視認性、耐久性に優れた“究極の実用時計”として人気のアイテムだ。
半世紀続く変わらないデザイン
エクスプローラーⅠは1953年に発表以来、リニュアールこそ何度もされているものの、概ねデザインは引き継がれている。
堅牢で防水性の高いオイスターケースに、ブラックの文字盤、シンプルな三針のみのデザインは半世紀以上変わっていない。
機能性やデザインについては、公式サイトや詳しく紹介している記事をご参照いただければと思う。
エクスプローラー Designed for exploration-ROLEX
過去の連載でも度々言っている通り、デザインが変わっていないことは、資産価値を持つブランド品である上で、大事な指標となる。
シンプルで完成されたデザイン
エクスプローラーⅠのデザインを一言で表すと“究極のシンプル”だ。
無駄な機能は一切ない。
日付確認のためのデイト機能すらない。
ただひたすら“どんな状況においても時刻が確認できること”に重点を置く時計である。
シンプルがゆえ、改良の余地も少なく、初登場時より大きくデザイン変更された箇所はない。
流行りに乗らないクラシカルな小型ケース
ケースのサイズは初登場時(Ref.6150)は36mm、2010年にリニューアルされた(Ref.214270)では、一度39mmと大型になったが、2021年の(Ref.124270)では、再度36mmへと回帰した。
現在の腕時計はケースサイズの大型化が主流となっているが、当時のままのサイズが継承されている。
メンズ向け高級時計の中では、かなり小型の部類ではあるが、小さいがゆえ人を選ばず、女性にも愛用者は多い。
現行のプロフェッショナルウォッチ最古のモデル
ロレックスの腕時計は、大きく「プロフェッショナルウォッチ」と「クラシックウォッチ」に区分される。
クラシックウォッチは、フォーマルシーンに活用できるドレスモデルとなっており、プロフェッショナルウォッチは特別なシーン最適化されたより機能面に優れたモデルだ。
ロレックスはプロフェッショナルウォッチの人気が特に高く、ロレックスが手がけた最初のプロフェッショナルウォッチがエクスプローラーⅠである。(※サブマリーナも同年に発表された)
ここ20年間の定価の推移
デザインの話はこのくらいにしておき、本題の価格推移の話をしていくが、近年ラグジュアリーブランドの製品は総じて大幅な値上げがされている。
以下のグラフはここ20年間の定価の推移と、大まかな中古相場を示したものだ。
国内定価(税込) | 中古美品相場 | |
---|---|---|
2003年 | 438,900円 | 25万円前後 |
2023年 | 860,200円 | 115万円前後 |
ロレックスの定価の高騰は比較的緩やかだ。(とはいっても20年で倍近くにはなっているが)
2020年以降は価格改定を頻発しており、直近の三年間で1.3倍ほど上昇している点は、近年の物価高騰の波を感じる。
中古相場は定価の上昇に比例するように、緩やかに上昇していたが、2017年-2018年頃から急騰し、それ以降中古相場は常に定価以上で推移している。
このグラフを作成するにあたって、様々な記事、私が所有していた文献などを参照した。
余談だが、上の写真は2011-2012のパンフレットとプライスリストだ。
エクスプローラーⅠ以外の全てのモデルの定価が掲載されており、定価の上昇が体感できる。
当時は無料配布していて、ブティックで入手することができたが、現在では配布されていないとの噂だ。(※もしかするとVIPにだけ配布しているかもしれない)
一部、手元にない年もあったため、下記の記事なども参考にさせていただいた。
ロレックス 過去の定価を調べてみました。EVANCE Blog
こちらの記事は他モデルの定価も詳細に記録されいて素晴らしかった。現在の定価や相場が、なんとなくでも頭に入っているロレックスファンなら、今との金額のギャップを楽しめるはずだ。
定価以上になったのは最近
ロレックスのプロフェッショナルウォッチの中でも、比較的エクスプローラーⅠの立ち位置は地味かもしれない。
花形“コスモグラフ デイトナ”
ダイバーズの定番“サブマリーナー”
パイロットウォッチの先駆け“GMTマスター”
これらは、あらゆるモデルがここまで入手が難しくなる前から、購入するのが難しく、中古品の相場も高かったモデルだ。
デザインにも特徴があり“ロレックスらしさ”を感じられるアイテムとして古くから人気だ。
それに比べてエクスプローラーⅠは、見た目は良くも悪くも普通。相場が上がったのは、単純にロレックスのブランド価値、知名度、そして入手の難しくなったことで高騰したと考察している。
そのため、プロフェッショナルウォッチの中でも、中古相場が定価以上となったのは「エアキング」と「エクスプローラーⅠ」が最後であった。
現在入手困難モデルの一つ
エクスプローラーⅠはロレックスのプロフェッショナルウォッチの中では、特別人気が高いというわけではないが、常に安定した人気と需要があるモデルだ。
過去でも現在でも、正規店で入手最難関とされる「デイトナ」などと比較すると、エクスプローラーⅠは入手できる方だとはされているが、それでも定価を40万円近く超えるプレミア価格となっている。
ロレックスのプロフェッショナルモデルに関しては、現在全てのモデルが正規店での入手困難。
購入するために、店舗をいくつも回る“ロレックスマラソン”なんて言葉が流行り出したのは最近だ。
エクスプローラーⅠに関しても、今から定価での購入を目指すならば、それなりに時間と労力がかかることは受け入れなくてはならない。
レアなヴィンテージモデルは大きく高騰
エクスプローラーⅠは、過去10回ほど「Ref.リファレンスナンバー(品番)」が変更されている。基本的にRef.は、大きなモデルチェンジの際に変更される。
そのため、Ref.は変わっていないマイナーチェンジも含めると、年代によって微妙に仕様が異なっていたりもする場合も多い。
歴代モデルの中には、価値が大幅に高騰しているエクスプローラーⅠがある。少しご紹介したい。
Ref.6150(初代)
1953年に発売された初代エクスプローラーⅠ(Ref.6150)は、今と違いブラック文字盤に加えて、ホワイト文字盤のカラーバリエーションが存在した。
この品番は、およそ4年ほどしか生産されておらず、現存する個体はいずれも状態が悪いものがほとんど。
だがそれでも、希少な初代モデルとして、海外サイトでは1,000万円以上の値段がつけられている。
Ref.1016(定番ヴィンテージ)
1960年から1988年まで生産されたエクスプローラーⅠ(Ref.1016)は、かなりロングセラーモデルとなった。
これ以降のモデルは、現行品に近く大きくリニューアルされており、最後のヴィンテージモデルとして人気が高い。
それなりの個体をお買い求めしようとすれば、250万円近くかかるレアモデルだ。
Ref.14270(ブラックアウト)
1990年から2001年まで生産された「Ref.14270」は、中古市場にもっとも多く流通しているエクスプローラーⅠといえるかもしれない。
この型番の初期に生産されたモデルには「ブラックアウト」と呼ばれるインデックスに白い塗料が塗られていないものがあり、同じRef.の中でもブラックアウトのレアアイテムのみ、相場が250万円ほどにまで高騰している。
「Ref.214270」の前期型も、ブラックアウト仕様ではあるが、こちらは生産数が多くプレミア化していない。
ラグジュアリー化が進むロレックスのプロフェッショナルウォッチ
ロレックスのプロフェッショナルウォッチは、エクスプローラーⅠだけでなく、全てが入手困難となっている。
それによって中古相場も跳ね上がり、かつての“労働者の腕時計”といったイメージから、“お金持ちしか買えない腕時計”となりつつあるのかもしれない。
デザインや仕様に関しても、ラグジュアリー色が強めになっているように感じている。
エクスプローラーⅠに関していうと、2021年に新作として発表された「エクスプローラーⅠ ロレゾール(Ref.124273)」は、シリーズで初めてK18イエローゴールドとのコンビモデルとなっており、賛否両論が巻き起こった。
それ以外にも、今までロレックスが今まで生産してこなかった「シースルーバックル(通称:裏スケ)」を、2023年新たに発表された「コスモグラフ デイトナ アイスブルー(Ref.126506)」と「パーペチュアル1908(Ref.52508等)」に採用した。
実用性だけを追い求めていたイメージのロレックスだが、近年は高級素材の高価格帯モデルにも力を入れている。
大型化が進むウォッチケースに逆行した唯一のモデル
エクスプローラーⅠは2010年にケースサイズが39mmにリニューアルされ、高級時計業界のブームに乗る形で、ケースが大型化されたと言われている。
しかし、2021年に発表された新モデルは、再度36mmサイズに回帰している。
古くからのファンからは、喜びの声の方が多かったように感じたが、いずれにせよ一度大きくなったケースサイズが小型化された事例はほとんどない。
他ブランドを含め、ケースの大型化が進む腕時計業界に一石を投じた。
資産としてみるエクスプローラーⅠ
最後に、エクスプローラーⅠの資産価値についてだが、流行り廃りがないデザインである点は高く評価してよいだろう。
資産価値の高いブランド品は総じて、デザインが長い間変わっていないことが共通点で挙げられる。
ロレックス自体、高級時計メーカーの中でも、シンプルなデザインが多いが、中でもエクスプローラーⅠのシンプルさは際立っている。
逆を言えば、流行りに乗って相場が急騰する可能性も低いが、ロレックスの価値が暴落しない限りは、今後も信頼できる資産となりうるはずだ。
事実として、ロレックスの数あるモデルの中でも、特に安定して右肩上がりのグラフを形成している。
今後の上昇率や高騰の期待値が一番高いモデルでないことは確かだが、初期から続く定番モデルとして、ロレックスの核を担っているアイテムの一つ。
私自身も末長く、終わりのない付き合いをしたいと考えている。
(文=小林 嶺)
この記事を監修した人
代表取締役
小林嶺